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あるところに、一人の青年が居ました。 「名前が欲しいんだ」 彼はただ、それだけのために旅をしていました。 一日中歩き続け、彼はふらふらでした。 「誰か名前をくれませんか」 そう切実に祈る声に、誰かが応えます。 「夜もすがら歩き続けて、それでも誰も君に名前をくれないのかい?」 「ああ、そうさ。誰も僕に名前を、意味を与えてくれないんだ」 「意味が欲しいのかい?」 「ああ。僕も物語の『誰か』になりたい」 名前さえあれば、だれでも主人公になれるのだと、彼は信じていました。 だから、彼は祈りました。 「名前が欲しいんだ。名前をおくれよ」 そう切望する青年の前に、ひとりの美しい、この世のものとは思えぬほど麗しい少年が姿を現しました。 青年は、少年を神様だと思いました。 羨望のまなざしで見つめてくる青年に、少年は残酷に、美しく笑いました。 笑って、言いました。 「ならずっと、夜もすがら名前を探し続ければいいさ。主人公になるために、ね」 そうして、からっぽにもなれないまま、彼はずっと一人ぼっちでした。 名前を手に入れてしまえば君は主人公ではなくなる。 それでも明けない夜はないのだろう? そう悪魔は嗤った。 久しぶりにタロットに触ったら 「愚者」(宛てもない放浪者) 「悪魔」(訳が分からない) 「月」(幻惑) がぼとぼと落ちたので(怖い |
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幸福のかたちはどういうものだったか。今になって考える。 せかいはただ広く、眩暈がするほどに私に冷たかった。 はかいの衝動も、せかいの布教も、全ては私を置き去りに進んでいく。 知識のない人間に対してこの世は嫌になるほど無情だ。 らくに生きたいと望み、簡単に生きてきたツケが廻ってきたのだろうか。 ないものねだりを続けてきた罰なのだろうか。 いつまで、この生き方を続けるのかと責め立てられるような日々。 まったく、私はいつ何処で選択を間違い。 また、どうしてそのまま生き続けてしまったのか。 でも、今でも。これからも。それは。 |
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