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五十濁音断篇<が行>
「が」
岸壁の向こう。海を挟んで向こう側。少女が立ちすくんでいる。手を伸ばす。届かないと識りながら。いつも同じ時間に同じ場所へ立つ、名前も知らない少女へと。
視線が合ったのは刹那。口の動きは見知らぬもの。それでも伸ばされた片腕。
言葉は分からない。けれど、指先は触れ合ったような、そんな気がした。

「ぎ」
銀行窓口に誰かが勢いよく突っ込んだ。その服装は黒ずくめ。サングラス。客も騒然、僕も動転。窓口にいるのは年配の女性。窓口でぽかんと闖入者の顔を眺めている。誰もが銀行強盗を想像したその時。
「母さん、子供生まれたよ!」
喜びの声とともに、声で彼が人気俳優Gということが明らかになった瞬間だった。

「ぐ」
具の無い味噌汁を眺める。この定食屋はおばちゃんの美味しい手作りお味噌汁が飲めるので重宝しているのだが、今日は一体どうしたのか。周りを見回せば特にいつもと変わった様子もなく味噌汁を啜っている。首をひねりつつ箸を入れる。持ち上げたそこには、群体となり沈んだワカメがまとわりついていた。

「げ」
げんこつが降ってくる。ぎゅっと目をつぶってそれを待つ。ぽかぽか、と微弱な痛み。煎餅、おかきに飴あられ。げんこつ焼き、と言われるお菓子を主に、こちらへと投げ込まれる菓子累々。
「ほら、行ってきなさい」
押される背中。少年は自らの手でおやつを手に入れるべく、げんこつに向かって走り出した。

「ご」
ご飯が好きだ。お魚にもお肉にも合うし、お野菜も良い。汁物と並べても丼にしても良い。とにかく米が好きだ。今日の夜ご飯は何を食べようか。しばらくずっと米続きだったし、たまには麺も……でもやっぱり米を……最終的に食卓には、ラーメンにチャーハン、何故かおにぎりと炭水化物が並んだのであった。

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【2016/09/08 10:53 】 | 掌編 | 有り難いご意見(0)
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