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誰もいない
ただいま、と小さく言う。
返事はない。

それは当たり前であるのだが。
そもそもこの家に、彼以外の住人はいない。
彼女もいなければ、あまり友人もいない。
従って、誰かが家に上がり込むようなこともない。

両親も今は遠く離れている。
ほんの少し前までは此所で一緒に暮らしていたものだが、あることをきっかけに1ヵ月半前から彼は独り暮らしになった。
一人の生活も、今はようやく慣れてきたところだ。

それでもやっぱり寂しいかな、と思う。
おかえり、の返ってこない、ただいま、は寂しいのだ。

暗く朽ちた部屋で、彼は哀しく笑った。

     ***

あら、もうあの大火事から1ヵ月以上経つのねぇ……

そうそう、ご家族全員亡くなった火事。息子さんなんてまだ社会人になったばかりで……

なんか最近この家から「ただいま」とか言う声が聞こえるらしいわよぉ。うちの子が学校で噂になってるって話しててねぇ。

あらやだ。気味悪いわね。

誰も住んでるはずはないんだけどねぇ、こんな焼け跡に……

あれ、今なんか……

あはは、やめてよ田中さーん。

ふふ、冗談よ、冗談。あ、そういえばテレビでね……

…………

……

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【2013/12/26 11:53 】 | 掌編 | 有り難いご意見(0)
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