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夏の夜の悪夢
 鮮やかな声で、女が嗤う。

「ねぇ、久しぶり。まだ生きてるの?」

 その声は嬲るような響きを持っていて、それでいて子供のような無邪気さを合わせもつ透明な声だった。
 彼女はずっと、そうだった。
 ずっとこうやって嗤って、俺たちを揺らす。

「ねぇ、今カノジョとかいるの?」

 いないよ。

「ならさ、私とかどう?」

 冗談はやめてくれ。

「嘘じゃないよー? 本気なんだけどなぁ」
 
 そんなこと言って、今までの男たちのように俺のことも捨てるつもりなんだろう?

「えー、わたしそんなキャラ?」

 キャラとかじゃなく、本当のことだろう?

「みんなが私を捨てたんだってぇ。私来るもの拒まず去る者追わず、だし?」

 ……去る者、ねぇ。お前が関わった男たち、皆死んでるのにか?

「…………」

「貴方のこと、本当に好きだったよ……さよなら」
 
 電話越しの声が遠い。
 掠れていく吐息。
 静かになる通話口。
 
 全て悪い夢だと思いたかった。

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【2013/06/20 00:16 】 | 掌編 | 有り難いご意見(0)
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