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鬼ごっこ
 金切り声が暗い室内に響く。

「やめてくれ!」

「ふふふ……貴方が悪いのよ?」

 女は美しい笑みを浮かべ、男に詰め寄った。
 そして、掲げるように鉈を捧げる。
 その瞳はただ優しく、慈母のように、それでも悪魔のように笑っている。

「私は貴方に全て捧げたわ。全てを、よ。
 なのに貴方は私に何もくれない。優しさも、口づけも、操も、何もくれないの。
 わたしは私はわたしは私は私はワタシはワタシはワタシハ……」

 狂ったように哄笑をあげる彼女に、男はひきつった笑みを浮かべた。

「お前、おかしいよ」

 彼のその怯えきった低いつぶやきに、彼女は笑う。
 艶やかに笑って見せる。

「貴方のために狂えないぐらいなら、死んだ方がましよ」

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【2013/05/20 22:02 】 | 掌編 | 有り難いご意見(0)
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