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シアンとレンクトのはなし
「シアンってさ、将来の夢ってある?」
 
 そんな唐突な友人からの問いに、シアンは怪訝そうに目を細めた。

「夢……ねぇ」

 とりあえず考えてみる。
 夢というほどのものではないのだろうが、望むことはいろいろあった。

 迫害されることなくゆっくり暮らしたい。
 母にもっと楽をさせてあげたい。
 父が思う存分研究を出来る環境が欲しい。
 レンクトと対等に話し合える関係になりたい。

 ……どれも、夢、というほどのものではない気がする。

「…………」
「なんかないの?」
「……夢、というほどのものでは」
「もうそれでいいよ」

 仕方なく考えたことを話す。
 レンクトはそれを黙って最後まで聞いた後、僅かに苦々しさの滲む声で笑って言った。

「僕なら簡単に叶えられるような夢だね」
「……それを夢というのであればな」
「それもそうか」

 くすくすと笑う。
 つられるようにシアンも思わず笑ってしまった。

 確かにレンクトからすればそれは夢でもなんでもない、些細なことなのだろう。
 シアンにすれば難しいことも、レンクトなら。
 彼に不可能なことは、とても少ない。

 ――ただ、ある一つを除けば、だが。

「レンの夢は?」
「ん? 僕の夢?」

 シアンの問いに、レンクトは嗤った。
 笑うことしか出来ない、というように嗤う。

「外に出ることだよ」
「…………」
「ねぇ、シアン?」

「……僕たち、逆だったら良かったのにね?」

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【2013/05/12 22:37 】 | 掌編 | 有り難いご意見(0)
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