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キリトリ
 カメラを構える。
 視線だけに意識を向け、息を殺す。
 そして、「その時」を待つ。

 ただ、それだけ。それだけのこと。
 それの繰り返し。

 彼にとってそれは日常で、ごくありふれた当たり前のこと。
 だが、人はそれを地味だと、無意味だと笑う。

 それを気にしたことはなかったのだが。

 彼が撮るのは空だ。
 青く深い空も、灰がかった薄青も、どんよりと曇った灰空も、雨の降る黒い空も、朱に染まる夕暮れも、星を飾る夜空も、どれも等しく。
 悠久に変わらぬその姿を仰ぐように、録り続ける。

 記憶だけでなく、記録に残していく。

 しかし、その日は酷く晴れていたものだから、あまりの眩しさに彼は視線を落とした。
 少し眩む視界の先で、自分の影がじんわりと揺らめく。

 焼けた世界で手元が狂った。

 パシャッ、という聞きなれた音が無常にも耳に届く。
 ああ、とため息をつくと、シューッと低くフィルムの巻かれる音。
 もう一度ため息をつく。


 最後の一枚。
 そこにはきっと、影で立ちすくむ自分の姿があることだろう。
 




【お題】さわやかリンゴジュース・影・空色

 さわやかリンゴジュースの呪縛に囚われる……無理でした。やっぱり。

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【2013/04/09 01:20 】 | 掌編 | 有り難いご意見(0)
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