湖の向こうには妖の町がある。
そんな言い伝えが村にはあった。 赤い金魚しかいない湖。河童も川姫もいない、ただの湖。 水面を覗いても決して見られない世界。 幻想はただひっそりと其処に在り続けていた。 ある日、湖を埋め立てる話が持ち上がる。 「赤き神に祟られるぞ」 村の老人たちは言った。しかし、誰もが老人の戯言と笑う。 そして湖は容赦なく埋められた。 上には建物が建ち、人が住んだ。祟りなど起こらない。 ただ穏やかに時は過ぎた。 しかし。子供だけにしか広まらない噂があった。 「あそこの水溜まり、赤い金魚がいるよ」 大人たちに水溜まりは見えていない。そもそも水溜まりに金魚はいない。 けれど確かに広がるその噂。幻世の世界。 今も何処かで彼らの水音。 PR |
|
忍者ブログ [PR] |