僕は街を往く。
見慣れた景色を見ながら。 お気に入りのヘッドホンで音楽を聴きながら。 大好きな彼女を想いながら。 街を往く。 走り慣れた景色を見ながら。 お気に入りの音楽を掛けながら。 大切な家族のことを想いながら。 ふと、大切なあの人を見かけた。 「「おーい」」 ひとつの声は街角から少女へ。 そして、もうひとつの声はトラックから子供を抱いた女性へ。 「あ」 そう、零したのはどちらだったのだろうか。 街を響く悲鳴とブレーキ音。 流れ出す赤。 子供の泣き声。 ****** お気に入りのヘッドホンをして、彼女は往く。 この街を。僕のいない、街を。 街角、ひっそりと置かれたのは菊の花。 彼女だけが気付く、あの日の僕に手向けられた花束。 「おーい」 何度呼びかけても、彼女はこちらを振り向かない。 街角にいる僕には気づかない。 もう二度と、僕の声は届かない。 ――了 PR |
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