ただいま、と小さく言う。
返事はない。 それは当たり前であるのだが。 そもそもこの家に、彼以外の住人はいない。 彼女もいなければ、あまり友人もいない。 従って、誰かが家に上がり込むようなこともない。 両親も今は遠く離れている。 ほんの少し前までは此所で一緒に暮らしていたものだが、あることをきっかけに1ヵ月半前から彼は独り暮らしになった。 一人の生活も、今はようやく慣れてきたところだ。 それでもやっぱり寂しいかな、と思う。 おかえり、の返ってこない、ただいま、は寂しいのだ。 暗く朽ちた部屋で、彼は哀しく笑った。 *** あら、もうあの大火事から1ヵ月以上経つのねぇ…… そうそう、ご家族全員亡くなった火事。息子さんなんてまだ社会人になったばかりで…… なんか最近この家から「ただいま」とか言う声が聞こえるらしいわよぉ。うちの子が学校で噂になってるって話しててねぇ。 あらやだ。気味悪いわね。 誰も住んでるはずはないんだけどねぇ、こんな焼け跡に…… あれ、今なんか…… あはは、やめてよ田中さーん。 ふふ、冗談よ、冗談。あ、そういえばテレビでね…… ………… …… PR |
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