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夜もすがらの物語

 あるところに、一人の青年が居ました。

「名前が欲しいんだ」

 彼はただ、それだけのために旅をしていました。
 一日中歩き続け、彼はふらふらでした。
 
「誰か名前をくれませんか」

 そう切実に祈る声に、誰かが応えます。

「夜もすがら歩き続けて、それでも誰も君に名前をくれないのかい?」

「ああ、そうさ。誰も僕に名前を、意味を与えてくれないんだ」

「意味が欲しいのかい?」

「ああ。僕も物語の『誰か』になりたい」

 名前さえあれば、だれでも主人公になれるのだと、彼は信じていました。
 だから、彼は祈りました。

「名前が欲しいんだ。名前をおくれよ」

 そう切望する青年の前に、ひとりの美しい、この世のものとは思えぬほど麗しい少年が姿を現しました。

 青年は、少年を神様だと思いました。

 羨望のまなざしで見つめてくる青年に、少年は残酷に、美しく笑いました。
 笑って、言いました。

「ならずっと、夜もすがら名前を探し続ければいいさ。主人公になるために、ね」

 そうして、からっぽにもなれないまま、彼はずっと一人ぼっちでした。

 

 名前を手に入れてしまえば君は主人公ではなくなる。

 それでも明けない夜はないのだろう?


 そう悪魔は嗤った。





 久しぶりにタロットに触ったら

「愚者」(宛てもない放浪者)
「悪魔」(訳が分からない)
「月」(幻惑)

 がぼとぼと落ちたので(怖い

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【2013/08/10 00:00 】 | 掌編 | 有り難いご意見(0)
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