折本『毒入り少女と孤独な人形師』の配信が終了しました。
お手にとって頂いた方々、本当にありがとうございます。初めましての方も、いつもお手にとって頂いてる方々も、皆様がいるおかげで配信を続けられております。 少しでもお楽しみいただければ幸いです。 今回は久しぶりに、というかほぼ初かな? 折本でちゃんとキャラクターの名前出して書きました。 人形師の青年がフィン、居場所を無くした少女の名前がジールでした。命名は適当です。折本は字数が限られているので、なるべく短い名前にすべく考えた結果です。切実な理由……! あの世界では魔法は当たり前にあるけど、だいたいの魔術が使える人は都市部に行っちゃってて、都市部から離れたあのような村にはいない、というイメージで舞台設定しました。 だから、あの村の人々は話には聞けども魔術師のホンモノを殆ど見たことがなく、作業用とはいえローブを着ていて村のハズレで人形ばかりを作り続けている変わり者の青年を勝手に魔術師と思い込んでしまいました。 フィンは見た目がそれっぽすぎた。 思い込まれた方はたまったもんじゃないですし、実際、力が強いぶん鍛えればそれなりの術士になれるであろうジールを勘違いからただの人間に預けてしまったのは悪手と言えます。 でもまぁ、それでいいのでしょう。 ジールはようやく自分を怖がらない、一緒に歩んでくれる人を見つけたのですから。 (実際のところ、フィンはそれなりにビビっている≒大切な人形たちが壊されることが無いよう必死に頭を働かせているヘタレ) ……いいのかホントに。 フィンは子供とか預けちゃいけないダメな大人ってやつでは……? 実際のところ、20歳そこそこって年齢では大人の仲間入りを果たしたは良いものの、まだ全然子どもですよね。 ようやく制限がなくなったところというか。責任が被されるようになるけど、代わりに自由が始まった年代。 今回はそういう、ちょっとまだかわいいところがある青年と、年相応にまだ甘えたいけど甘えられなかったかわいい女の子ふたりのお話でした。 ぜひ機会があればまたこの二人のお話は書いてあげたいところです。 *** なんにしても、今回はただのふたりぼっちの出逢いの物語でしか無かった掌編なんですが、表紙がぐうかわでしたね……! キャラ概要出して依頼したのは私ですが、出てきたキャラデザが可愛すぎてどうしようかと思いました……! もうここからは完全に私情なんですが、私情じゃないことあったかって話なんですが、表紙のジールめちゃくちゃ可愛かったですね!(クソデカボイス) あんな子に上目遣いで来られたら、追い出すに追い出せないでしょう…… 今回の表紙をお願いした小日向るかさんですが、もうずっと一方的に追っかけ回してたので本気で念願叶っての表紙依頼でした。 そして、お願いして正解でした。フィンはカッコいいし、ジールはめちゃくちゃかわいい。 いつもだと世界観優先で名前無し主人公たちが多かったんですけど、今回はキャラクター優先とゆるふわコメディ調で作ったので割りとキャラの方向性は詰めて「こういう理由でこういう格好で」というのはお願いしました。 フィンなら人形師なのでハサミなどの道具を持っていて、人形作りで汚れるので作業着としてのローブを着ていて。 ジールなら保護者がいないため、みすぼらしい訳ではないけどシンプルな服(村人からのもらい物です)、かつ魔力暴走のせいで人に触れてもらえないので髪が長く伸ばしっぱなし、など。 最終的に表紙のとおりです。かわいいでしょう…… 途中キャララフも見せていただいているんですが、作中の表情なども描いてもらって、自分の中でこの二人はますます可愛さが増しました。 実にかわいいですね。 そういう意味でもまた別側面も見てみたいので、この二人の物語はまた書きたいです。 今のところ予定はたっていないのですが、もし機会がありましたら宜しくお願いします! 以下、今回の折本の後日談。 少女と人形師の、始まりから少し経った日常の断片。 ***** 『毒入り少女の不退転と人形師』 木漏れ日差す暖かなとある日、森の中でかわいいかわいいお人形たちの素材を探していたら、我が家のほうから破裂音のようなものが聞こえた。 「なんだなんだ」 もう聞き慣れたそれはおそらく同居人によるもの。 哀れにも”毒”などという悪趣味な言われようをしている、まだ幼いと言ってもいい少女のものだ。 「はぁ、まったく……怪我でもしてなきゃいいが」 がしがしと頭を掻いて、よっこらしょ、と立ち上がる。エプロンのポケットに拾った小石やら種を適当に放り込んで、慣れた手つきでボロ屋のドアを開けた。 「おーい、今度はなに壊した?」 そう言いながらなかを覗き込めば、しょんぼりした様子の少女の背中が見える。 「……ごめんなさい」 目を伏せながらの謝罪とともに渡されたのは、失敗作だからと男が適当に放り出していたアクセサリーの一部だった。破片が足元に散らばっている。 おそらく、それらを拾い集めているだったのだろう。少女の膝が汚れていた。 「あー、また汚しちまって……つっても、俺が掃除してねぇのがわりぃか」 しゃがみこんで汚れを払ってやる。が、いっこうにきれいにならない。それどころか茶色の汚れが増えた。肝心の自分の手が土まみれだったことに今更気付く。 しょうがないので服の袖で拭ってやった。これで証拠隠滅は完了だ。ちょっとばかり土が残ってるいが、まぁ、床のほうが汚いしそのせいだと思うだろう、うん。 「よっし、これで大丈夫。そんで、ソレも別に壊されても大丈夫なやつだったから気にすんな。初日に言ったろ? 壊したくないものはちゃんとしまっとけ。俺もそうする、って。お前のせいで何か壊れたなら、それをしまって置かなかった俺が悪い」 なぁ、そうだろ、と立ち上がって小さな頭を撫でる。しまった、今度は髪に土汚れがついた。 証拠隠滅を図ろうとあえて乱暴に髪を混ぜてみる。少女の長髪がぐちゃぐちゃになって、絡まり放題、爆発し放題になってしまった。じっと見上げる瞳がもの言いたげに瞬いている。 「……何かあれば目を閉じてからドーゾ」 「ううん、なんでもない。膝、きれいにしてくれてありがとう」 文句ひとつ言わぬ少女は、それだけいうと部屋の端に追いやられた掃除道具を取りに行った。 そして、自分の背よりも長い柄を懸命に動かして自らが壊したものを掃いている……いや、というよりも元々汚れていた床の掃除をしているのか。 ちりとりに集まるのは男が放り出した布の切れ端や石、そして砂ばかり。彼女が壊したものなど全体の僅かだろう。ちょっとだけばつが悪い。 本来ならこんなところで掃除なぞをしていていい子ではないのだ。そもそも子どもに自らの後始末をさせてしまっていることが問題なのだが、それはさておき。 今は”毒”と呼ばれて厄介者扱いの少女だが、それもこれもその身に強大な魔力を宿しているため。制御できない力は勝手に外に溢れて望まない事故を起こす。 それを防ぐためにも、本来であればかつての同類であった魔術師に弟子入りして力の扱い方を学ばなければならない。 ……のだが。彼女の住んでいた村の人々のちょっとした勘違いにより、彼女は魔術師ではなく人形師と生活を共にすることになってしまった。 「……なぁ、やっぱり今からでも」 「行かない、ここがいい」 弟子入りさせてくれる魔術師を探したほうがいい、という青年の言葉を押し潰すように少女はきっぱりと言う。 「……迷惑だと思うけど、ここがいいの」 目を伏せて述べられる言葉の真意はわからない。 であれば、男には少女の言葉を信じるほかないのだ。 「わかったよ、お前がいいならそれでいい」 こくり、と頷く少女は、ずいずいと男の袖を引いてある一点を指さした。 「あのね、これ見てほしいの」 そういって指し示されたのは一体の人形だ。男が途中まで作ったものの、ドレスがすこし気に入らなくてまだ作りかけと言えるもの。 作りかけがなんだ、と口にする男の前で、少女は「立って」と人形に話しかける。 ……少女の指示通り、人形がひとりでに立ち上がった。 「え……」 「私の髪の毛を一本、この子の髪の内側に入れたら動くようになった。ねぇ、その場でジャンプして」 ぴょん、と一度だけ跳ぶ人形。目眩がする。 「もっと色々できる、見てて」 「あ、うん……そう……」 男の動揺などいざ知らず、少女は人形に色々な指示を出してちょっとしたショーを繰り広げている。 「すごいな……」 ーー思わずこぼれてしまった感嘆に、少女がもっと褒められたいとまた別の人形を動かしてしまい男がパニックになるも、それはまた別のお話である。 了 PR |
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