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  • » 2025.01
夜色夜伽
 蝋燭1本の儚い炎が暗い室内を照らす。
 その片隅の簡素なベッドの上、肌の白い男が横たわっている。

「王よ、具合はいかがですか?」

 そう問いかけるのはベッドに横たわる男とよく似た面差しの青年。
 異なるのは赤く染まった右目だけ、とでも言えるほど良く似た青年だ。

 彼は淡々と自らの主君の傍に立ち、冷めた瞳で身動きしない男を見つめていた。

 分かっていた。
 彼の王が――彼の父が、けして長くはないことを。

 少し動くだけで裾の長い黒いローブが床に擦れる。
 夜色の衣服の向こう、王に従うものとして、そして息子として考える。
 きっとすぐにでも、王たる証としての白い衣服を着る日が来る、と。

 今までは王の陰として、従者として、夜色の服を着て影のように付き添っているだけだった。
 しかし、そうはいかなくなる。
 父が崩御すれば、王と同じような服を着る日が来る。

 静かな寝息を聞きながら、返ってこない返事を想う。

「碧」

 艶やかな声が耳朶を打つ。
 呼ばれた名は黒衣の彼のもの。

「母さん」
「あの人は……まだ起きないのね」

 薄く細めた瞳で女は彼の姿を哀しそうに見た。
 艶やかに着飾って、艶やかに笑って、鮮やかな声で、彼女は哀しそうに言う。

「もう、あの人は目覚めないのね」

「……ごめん」

 何を言えばいいのか分からなかった。
 母は、彼の王のことを本当に愛しているのに、彼にはどうすることもできない。

 どうしてあげることもできない、のに。

「いいの。いいのよ……」

 彼女は嗤って白の王、ではなく、黒衣の体を抱きしめる。
 その仕草は息子に対するもの、というよりも……

(……代用品になれというのか)

 言外に伝わる想い。
 その縋りつくような手に、眩暈がする。

(俺もまた、あの人と同じになるのか)

 服だけではなく、その役割まで。
 そう思ったら、吐き気がした。

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【2013/06/08 00:07 】 | 掌編 | 有り難いご意見(0)
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