蝋燭1本の儚い炎が暗い室内を照らす。
その片隅の簡素なベッドの上、肌の白い男が横たわっている。 「王よ、具合はいかがですか?」 そう問いかけるのはベッドに横たわる男とよく似た面差しの青年。 異なるのは赤く染まった右目だけ、とでも言えるほど良く似た青年だ。 彼は淡々と自らの主君の傍に立ち、冷めた瞳で身動きしない男を見つめていた。 分かっていた。 彼の王が――彼の父が、けして長くはないことを。 少し動くだけで裾の長い黒いローブが床に擦れる。 夜色の衣服の向こう、王に従うものとして、そして息子として考える。 きっとすぐにでも、王たる証としての白い衣服を着る日が来る、と。 今までは王の陰として、従者として、夜色の服を着て影のように付き添っているだけだった。 しかし、そうはいかなくなる。 父が崩御すれば、王と同じような服を着る日が来る。 静かな寝息を聞きながら、返ってこない返事を想う。 「碧」 艶やかな声が耳朶を打つ。 呼ばれた名は黒衣の彼のもの。 「母さん」 「あの人は……まだ起きないのね」 薄く細めた瞳で女は彼の姿を哀しそうに見た。 艶やかに着飾って、艶やかに笑って、鮮やかな声で、彼女は哀しそうに言う。 「もう、あの人は目覚めないのね」 「……ごめん」 何を言えばいいのか分からなかった。 母は、彼の王のことを本当に愛しているのに、彼にはどうすることもできない。 どうしてあげることもできない、のに。 「いいの。いいのよ……」 彼女は嗤って白の王、ではなく、黒衣の体を抱きしめる。 その仕草は息子に対するもの、というよりも…… (……代用品になれというのか) 言外に伝わる想い。 その縋りつくような手に、眩暈がする。 (俺もまた、あの人と同じになるのか) 服だけではなく、その役割まで。 そう思ったら、吐き気がした。 PR |
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