「シアンってさ、将来の夢ってある?」
そんな唐突な友人からの問いに、シアンは怪訝そうに目を細めた。 「夢……ねぇ」 とりあえず考えてみる。 夢というほどのものではないのだろうが、望むことはいろいろあった。 迫害されることなくゆっくり暮らしたい。 母にもっと楽をさせてあげたい。 父が思う存分研究を出来る環境が欲しい。 レンクトと対等に話し合える関係になりたい。 ……どれも、夢、というほどのものではない気がする。 「…………」 「なんかないの?」 「……夢、というほどのものでは」 「もうそれでいいよ」 仕方なく考えたことを話す。 レンクトはそれを黙って最後まで聞いた後、僅かに苦々しさの滲む声で笑って言った。 「僕なら簡単に叶えられるような夢だね」 「……それを夢というのであればな」 「それもそうか」 くすくすと笑う。 つられるようにシアンも思わず笑ってしまった。 確かにレンクトからすればそれは夢でもなんでもない、些細なことなのだろう。 シアンにすれば難しいことも、レンクトなら。 彼に不可能なことは、とても少ない。 ――ただ、ある一つを除けば、だが。 「レンの夢は?」 「ん? 僕の夢?」 シアンの問いに、レンクトは嗤った。 笑うことしか出来ない、というように嗤う。 「外に出ることだよ」 「…………」 「ねぇ、シアン?」 「……僕たち、逆だったら良かったのにね?」 PR |
月が深く誘うような夜だった。
「ちょっと、なんですかいきなり」 「んだよ。いいだろ」 窓から月を背負って室内に侵入してくる人影。 それは夜色を纏う少年だった。 「ギャーギャー喚くなよ。いつものことだろ」 「知ってますか? こういうの、不法侵入って言うんですよ?」 「警察に連絡でもすれば?」 「しませんよ」 「だよね」 俺よりも年下の華奢な少年。成人もしていないだろう。 それでもなんとなく気圧されてしまう。 その背に纏う重さが俺なんかよりもよっぽど濃い日々を送ってきた証左のようで、圧されるように流れるように彼に従ってしまう。 彼は決まって夜、ふらりと現れては何事もなかったかのように俺の隣に居る。 昔からそうだったかのように、それが当たり前のことのように。 そして、決まって彼はごろりと俺のベッドに寝転がる。 それだけ。 本当にそれだけで、食べ物を求められたり、盗みを働いたりは絶対にない。 猫のようにくるりと丸まって、いつもすぐに寝息を立て始める。 言葉を交わす暇もない。 だから、いつも俺はため息をひとつついて毛布をかけてやる。 穏やかな眠りに身を焦がす黒猫に、ほんの少しの優しさを。 どうせ朝になったら勝手にいなくなる。 何処から来たのか、どうして此処に来るのか、それは分からない。 分からないけれど、まぁ、それでもいいかな、と思っている。 灰かぶり然り、鶴の恩返し然り、正体のわかった物語の結末は決まっている。 そっ、と物音を立てないように彼に近付く。 そして、ふわりと白い布をかける。 細い、その肢体が覆い隠される。 近くで見たあどけない寝顔は年齢不相応で、彼を随分と幼く見せた。 嗚呼、まったく…… こんな綺麗な顔で眠っている人が目の前にいたら、と思うと、白雪姫に出てくる王子の気持ちも分かるというものだ。 「油断しすぎだよ」 夜の深みに誘い出されたようで、あまりいい気分ではないけれど。 「んっ……」 彼が身じろぎする。 その細い首筋に手を這わせ。 「ねぇ」 その細い首筋から浮き出す骨を唇でなぞる。 耳にかかる息が熱い。 「俺さ、何にも知らないんだ」 こんなに焦がれても。 「何にも知らないのに」 こんなに焦がれているのに。 「それでも、いいって思えてたのに」 この関係に不満を覚えたことはないけれど。 「もう……」 全部夢じゃなかったのかと怯えるだけの朝は、もういやだ。 「っ! はぁっ……! はぁ、はぁ」 これ以上は駄目だと理性が告げる。 これ以上深みに嵌れば抜け出せないと警鐘が鳴る。 口元を拭って、ようやくの思いでベッドから離れる。 もう今日は彼のことを見ないと決めた。 どうせ朝になったらいつも通りだ。 その時。 「ねぇ……もう終わり?」 誘うような、夜の声が聞こえた。 友「ホモォ ┌(┌ ^o^)┐」 私「え」 友「ホモォ ┌(┌ ^o^)┐」 私「……( ゚∀゚)」 ほも書けって言われたけど無理だったぜ! |
カメラを構える。
視線だけに意識を向け、息を殺す。 そして、「その時」を待つ。 ただ、それだけ。それだけのこと。 それの繰り返し。 彼にとってそれは日常で、ごくありふれた当たり前のこと。 だが、人はそれを地味だと、無意味だと笑う。 それを気にしたことはなかったのだが。 彼が撮るのは空だ。 青く深い空も、灰がかった薄青も、どんよりと曇った灰空も、雨の降る黒い空も、朱に染まる夕暮れも、星を飾る夜空も、どれも等しく。 悠久に変わらぬその姿を仰ぐように、録り続ける。 記憶だけでなく、記録に残していく。 しかし、その日は酷く晴れていたものだから、あまりの眩しさに彼は視線を落とした。 少し眩む視界の先で、自分の影がじんわりと揺らめく。 焼けた世界で手元が狂った。 パシャッ、という聞きなれた音が無常にも耳に届く。 ああ、とため息をつくと、シューッと低くフィルムの巻かれる音。 もう一度ため息をつく。 最後の一枚。 そこにはきっと、影で立ちすくむ自分の姿があることだろう。 【お題】 さわやかリンゴジュースの呪縛に囚われる……無理でした。やっぱり。 |
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