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  • » 2025.01
誰もいない
ただいま、と小さく言う。
返事はない。

それは当たり前であるのだが。
そもそもこの家に、彼以外の住人はいない。
彼女もいなければ、あまり友人もいない。
従って、誰かが家に上がり込むようなこともない。

両親も今は遠く離れている。
ほんの少し前までは此所で一緒に暮らしていたものだが、あることをきっかけに1ヵ月半前から彼は独り暮らしになった。
一人の生活も、今はようやく慣れてきたところだ。

それでもやっぱり寂しいかな、と思う。
おかえり、の返ってこない、ただいま、は寂しいのだ。

暗く朽ちた部屋で、彼は哀しく笑った。

     ***

あら、もうあの大火事から1ヵ月以上経つのねぇ……

そうそう、ご家族全員亡くなった火事。息子さんなんてまだ社会人になったばかりで……

なんか最近この家から「ただいま」とか言う声が聞こえるらしいわよぉ。うちの子が学校で噂になってるって話しててねぇ。

あらやだ。気味悪いわね。

誰も住んでるはずはないんだけどねぇ、こんな焼け跡に……

あれ、今なんか……

あはは、やめてよ田中さーん。

ふふ、冗談よ、冗談。あ、そういえばテレビでね……

…………

……

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【2013/12/26 11:53 】 | 掌編 | 有り難いご意見(0)
夜もすがらの物語

 あるところに、一人の青年が居ました。

「名前が欲しいんだ」

 彼はただ、それだけのために旅をしていました。
 一日中歩き続け、彼はふらふらでした。
 
「誰か名前をくれませんか」

 そう切実に祈る声に、誰かが応えます。

「夜もすがら歩き続けて、それでも誰も君に名前をくれないのかい?」

「ああ、そうさ。誰も僕に名前を、意味を与えてくれないんだ」

「意味が欲しいのかい?」

「ああ。僕も物語の『誰か』になりたい」

 名前さえあれば、だれでも主人公になれるのだと、彼は信じていました。
 だから、彼は祈りました。

「名前が欲しいんだ。名前をおくれよ」

 そう切望する青年の前に、ひとりの美しい、この世のものとは思えぬほど麗しい少年が姿を現しました。

 青年は、少年を神様だと思いました。

 羨望のまなざしで見つめてくる青年に、少年は残酷に、美しく笑いました。
 笑って、言いました。

「ならずっと、夜もすがら名前を探し続ければいいさ。主人公になるために、ね」

 そうして、からっぽにもなれないまま、彼はずっと一人ぼっちでした。

 

 名前を手に入れてしまえば君は主人公ではなくなる。

 それでも明けない夜はないのだろう?


 そう悪魔は嗤った。





 久しぶりにタロットに触ったら

「愚者」(宛てもない放浪者)
「悪魔」(訳が分からない)
「月」(幻惑)

 がぼとぼと落ちたので(怖い

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【2013/08/10 00:00 】 | 掌編 | 有り難いご意見(0)
幸せは知らないままで

 幸福のかたちはどういうものだったか。今になって考える。
 せかいはただ広く、眩暈がするほどに私に冷たかった。
 はかいの衝動も、せかいの布教も、全ては私を置き去りに進んでいく。
 知識のない人間に対してこの世は嫌になるほど無情だ。
 らくに生きたいと望み、簡単に生きてきたツケが廻ってきたのだろうか。
 ないものねだりを続けてきた罰なのだろうか。
 いつまで、この生き方を続けるのかと責め立てられるような日々。
 まったく、私はいつ何処で選択を間違い。
 また、どうしてそのまま生き続けてしまったのか。
 でも、今でも。これからも。それは。

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【2013/07/10 23:53 】 | 掌編 | 有り難いご意見(0)
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