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友人が兄を連れてきた。
彼方(かなた)は目の前に立つ二つの顔をまじまじと見比べて、小学生らしからぬ感嘆の息を吐いてしまった。 なるほど、並んで立たれるとなおさら際立つ。友人兄弟、彼らは双子だったのである。 友人且つ弟の方――明日(あす)は、いつもは柔和な顔を固いしかめっ面に変えて、かたくなに隣を見ようとはしない。 一方、今回はじめましての兄の方――月夜(つきよ)は、これでもかとばかりの笑顔でこちらに手を振ってきて、反対側の手はがっしりと弟の腕に回して、これまた弟の確保に余念がない。 よく似た兄弟である。 よく似ているが、同時に正反対の兄弟でもある。 まじまじと見つめる視線に耐え兼ねたのか、明日は唇を尖らせてこういった。 「どうせきみも、ぼくたちが良く似ている、とでも言いたいんでしょう?」 似てると思う。とは口が裂けても言えない。 全力で首を横に振って、拗ねた様子の友人に一生懸命”言い訳”をした。 「そりゃ双子だから似てるとは思うけど、明日は明日だし、お兄さんはお兄さんだろ」 これも限りなく本音ではあるが、正直「似てる」とひとこと言っただけで友人が怒り狂いそうだったので、ただ単にひよっただけである。 「ほら、言ったろ明日。明日の友達なんだからおれとお前を間違ったりなんかしない、って」 「だって、お父さんたまに間違うし……」 「だまそうとしてだましたら間違えるだろ。間違えられるのが嫌なら入れ替わりなんかしなけりゃいいんだって」 「うっ……」 そりゃ父に罪はないだろ、と思ったが、言わない。 「うちの弟かわいいだろー。普段大人ぶってるくせに家のなかだとね、あんな……」 「だまれ」 「……ん、分かった。わかったからその顔やめて。こわい」 「わかればいいんです」 「そ、それはともかくとして。彼方くん、いい友達だね。よかったね明日」 「いいでしょう、これ僕の友達だからね。月夜にはあげないから」 「取らない取らない。うちの弟、これからもよろしくね」 「当たり前みたいにお兄ちゃん面するのやめてくれる?」 「……明日くんや、なんかお兄ちゃんに対して当たり強くない?」 彼方はなすすべもなく目の前で起こる言い合いを眺めながら、この双子は本当に仲がいいのだなぁ、なんてことを思った。 が、彼方は絶対にそれを口には出さなかった。 これからも出すことはないだろう。そう確信して。 ***** 時を経て高校。 高校に入ってから知り合った友人、いつか――少々頭の回転が悪い――は、初めて月夜に会い、散々明日と見比べてから感慨深げに呟いた。 「すっげー、良く似てんなー……入れ替わりとか出来るの? 出来るの!? マジか、すげぇなぁ! お前、なんだっけ名前。月夜? 明日と月夜!? 正反対! すっげー! というか顔も良く似てるし入れ替わりとかしちゃうぐらいなんだからおまえら仲もいいんじゃ……」 ここまで言っていつかが明日にフルスロットルで殴られたので――おそらく彼方が幼少期に気付けた地雷をすべて踏んだ――彼方はすべてを見なかったことにしたのであった。 |
いつも往く公園に、必ず黒のハードカバーを持った少年がいる。
わたしはいつも彼を横目に木の下に陣取ってスケッチをする。なにげない日常の風景。彼も写ったり、写らなかったり。ただ、同年代の少年少女たちが遊具で楽しそうに遊んでいる姿を対比すると、彼の存在はやたらと浮いて見えるのだった。 そんな生活が続いて半年。 「ねぇ、いつも何書いてるの?」 流石に気になって尋ねてみる。向こうもこっちの顔を覚えたみたいで最近は会釈もしてくれるし、まぁ、話しかけるぐらい良いだろう。 彼はほんの少し目を泳がせて、ぽつり、と言った。 「自分で……自分をわかるため」 絞り出すような声。彼は目線を逸らしたまま、続ける。 「何考えてるか、自分でも分からないから……だから、書く。それだけ」 それは、わたしも似たようなものだと思った。毎日描き続けるだけの生活。その意味。 それが絵か、文字か。ただ、それだけのはなしだったのだ。 了 |
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